朝鮮民主主義人民共和国外務省のリ・ジウォン米国研究所研究員は「ワシントンのインド太平洋戦略は地域の平和と安定を破壊する地政学的対決シナリオである」と題した文を発表、朝鮮中央通信が18日伝えた。
文は、バイデン政権が「米国のインド太平洋戦略」報告書の発表2年に際して、成果を自画自賛している問題を取り上げ、「『米国のインド太平洋戦略』報告書が発表されてから2年が経ったこんにちの現実は、現米行政府が標榜する『自由で開かれ、繁栄して安定的な地域建設』の荒唐無稽さを明白に示している」と指摘した。
文の全文は以下の通り。
最近、「米国のインド太平洋戦略」報告書の発表2年に際して、米行政府がインド太平洋戦略の遂行において「歴史的な進展」が遂げられたと主張して、地域ブロックのつくり上げおよび拡大強化の試みが本格化されたのを主な「成果」にあげた。
また、自由で開かれたインド太平洋地域建設の推進、地域内外の国々との連携強化、地域の繁栄促進、地域の安保強化、国境を越える21世紀の脅威に対処した回復力の確保が実現したと自画自賛した。
バイデン行政府の大げさな祝賀熱気は、何を見せているのか。
誰が見ても、ウクライナや中東をはじめ世界の至る所で窮地に陥っている米国があたかもアジア太平洋地域では「成果」をあげているかのように宣伝してみようとやっきになっていることが難なく分かる。
しかし、「米国のインド太平洋戦略」報告書が発表されてから2年が経ったこんにちの現実は、現米行政府が標榜(ひょうぼう)する「自由で開かれ、繁栄して安定的な地域建設」の荒唐無稽(こうとうむけい)さを明白に示している。
第一に、米国のインド太平洋戦略は地域に「自由と開かれた」ではなく、「閉鎖と陣営対決」をもたらした。
周知のごとく、米国のインド太平洋戦略は地域で反米・自主的な国々を押さえつけ、覇権的地位を確保するのを基本使命としている。
2012年、オバマ行政府が打ち出したアジア太平洋再均衡戦略に起源を置いているインド太平洋戦略は、トランプ行政府時代に概念化され、より包括的な戦略に進化した。
トランプ行政府時代、米国は「自由で開かれたインド太平洋地域の建設」を唱えて、アジア太平洋地域に限られていた戦略の範囲をインド洋に拡大し、2019年に米国務省と国防総省はこの戦略を成文化した「インド太平洋戦略」報告書を発表した。
インド太平洋戦略の覇権志向的かつ侵略的な本性は、バイデン行政府時代に入ってさらに鮮明にさらけ出された。
バイデン行政府は、執権初期から「クアッド」の対決的性格をより明らかにし、2021年9月には「AUKUS(オーカス)」をつくり上げて地域での核拡散の憂慮と緊張を触発させた。
これとともに、米・日・韓と米・日・フィリピンの3者協力を制度化するなど、追随勢力を好戦的かつ不可逆的なブロックに網羅させるための動きが露骨になった。
また、ASEAN加盟国と太平洋島嶼(とうしょ)国をはじめとする地域諸国に、親米と自主の二つのイデオロギー的立場の中で両者択一することを強要した。
これによって、親米を選択した国々は米国の地域戦略に拘束されて彼らの指揮棒に従って動くようになり、自主を選択した国々は間違いなく米国の標的となった。
第二に、米国のインド太平洋戦略は地域に「安定」ではなく、「情勢不安定と戦争の危機」をもたらした。
米国は、インド太平洋戦略を遂行するために追随勢力との軍事的共謀結託強化で地域諸国を圧迫するのに主な力を入れた。
特に、米国は日本、大韓民国の連中との3角軍事共助を強化する一方、「拡大抑止力の提供」をうんぬんして朝鮮半島とその周辺地域に戦略資産を随時出没させた。
昨年だけでも、韓国かいらい地域に40余年ぶりに米原潜が寄港し、30余年ぶりに初めて米核戦略爆撃機が着陸したかとすれば、2回にわたって行われた「核協議グループ」会議では朝鮮民主主義人民共和国に対する核使用計画が実践的方向で謀議された。
米国はまた、「航行の自由」を口実にして南シナ海と東シナ海、台湾海峡をはじめとするホットスポット水域に軍艦と戦闘機を次々と送り込んで情勢を意図的に緊張させ、地域諸国間の紛争を助長した。
そのうえ、米国はアジア太平洋地域で「ウルチ・フリーダム・シールド」「パシフィック・ドラゴン」「リジリアント・シールド」「ノーブル・フュージョン」「コープ・ノース」など、各種名称の合同軍事演習を毎日のように繰り広げて軍事的衝突の危険性を前例なく高調させた。
さらに、米国がNATOのアジア太平洋地域進出を積極的にあおり立てていることによって、欧州の暗い戦雲はアジアへ押し寄せている。
NATOが2022年6月、新しい戦略概念でアジア太平洋地域諸国の「脅威」を取り上げ、最近、地域諸国を自分らの戦略的パートナーの隊列に引き入れているのは、遠からず到来するNATOのアジア太平洋侵略の前奏曲である。
米国と追随勢力の無謀な軍事的対決狂気によって、アジア太平洋地域、特に世界最大の核火薬庫である朝鮮半島で核戦争の勃発(ぼっぱつ)は、すでに可能性を議論する対象ではなく、時点上の問題になり、地域諸国は直面した安保状況から自衛的国防力強化という必須不可欠の選択をするようになった。
明白に、米・日・韓によるアジア版NATO創設企図とアジア太平洋地域へ伸ばされているNATOの黒い魔手によって、地域には新冷戦時代が刻一刻到来している。
第三に、米国のインド太平洋戦略は地域の「繁栄」ではなく、「混乱」を促した。
米国が特定国家を地域経済体制から排除、孤立させようとする腹黒い下心をあらわにし、安保概念を経済分野へ拡大したことによって、アジア太平洋地域の経済発展と成長は深刻な制約と障害を受けている。
バイデン行政府は、「半導体および科学法」を採択し、「4者半導体同盟」創設構想を打ち出すことで、半導体の兵器化で地域諸国の科学技術の発展を抑止するのに目的を置いた不法非道な経済戦争を宣布した。
また、「関係分離と危険減少」を言い立てて自国の会社と西側諸国が先端技術分野で米国のライバル国家と協力できないようにことごとにブレーキをかけている。
特に、米国はインド太平洋経済枠組みを通じて地域諸国を排除した排他的な供給網の構築を試みている。
アジア太平洋地域で自国の経済的影響力が弱まるのにあわてふためいた現米当局者は2022年5月の訪日期間、13の追随国家を糾合してインド太平洋経済枠組みを正式に発足させた。
昨年11月、サンフランシスコで行われたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議の期間にも、インド太平洋経済枠組み首脳会議を開いて地域の一部の国々に対する集団的な経済的圧迫企図をあらわにした。
地域的経済協力と発展を模索するという場で「小集団会議」を行い、「核心鉱物対話体」を発足させた事実は、米国がインド太平洋経済枠組みを通じてどんな目的を追求しているのかを明白に示した。
また、米国が「金融援助」という体裁のよい看板の下、各種の政治的付帯条件を持ち出して発展途上諸国に対する乱暴な内政干渉行為をこととしていることによって地域の経済的被害は増大しており、はては一部の国々は持続的な混乱状態に陥って独自的発展の方途を見い出せずにいる。
結局、米国が自主的な主権国家を相手にして繰り広げている経済戦争によって、地域の経済が政治的ないけにえに転落することで、安定的な供給網が構築されず、アジア太平洋経済貿易協力の一体化過程が甚だしく破壊された。
地域国家を陣営対決構図に拘束させ、情勢の不安定と経済的混乱を招いたこと、これが米国のインド太平洋戦略が地域にもたらした「最大の贈り物」である。
国際メディアと専門家がインド太平洋戦略をいかに飾っても、それは徹頭徹尾、米国の利益に奉仕するためのものであり、それによってアジア太平洋地域には前例のない混乱と不安定が招かれたと主張しているのは、理由なきことではない。
米国が崩れている覇権的地位と古びた国際秩序を維持するために、自分らの「献身的な努力」と地域内の反米・自主国家の「脅威」をうんぬんしているが、インド太平洋戦略の全般に内在している侵略的性格は絶対に覆い隠せない。
アジア太平洋地域諸国は、一極覇権の樹立と自国の利益のために地域を地政学的賭博の碁盤につくろうとする米国の策動に警戒心を高めなければならず、それを徹底的に排撃すべきである。(了)