朝鮮で開発していた極超音速ミサイルが実戦配備の段階に入った。
強力かつ威力ある朝鮮の力の実体
金正恩総書記が見守る中、11日に行われた試験発射で「ミサイルから分離された極超音速滑空飛行戦闘部は、距離600キロメートル辺りから滑空再跳躍し、初期発射方位角から目標点方位角へ240キロメートル強い旋回機動を遂行して1000キロメートル水域の設定標的を命中し」、「極超音速滑空飛行戦闘部の優れた機動能力がいっそうはっきり実証された」と「労働新聞」が報じた。(12日付)
朝鮮はこの試験発射を「最終試射」であるとし、「朝鮮労働党第8回大会が示した国防力発展5カ年計画の中核5大課題のうち、最も重要な戦略的意義を持つ極超音速兵器開発部門で大成功を収めた」と評価し、「強力かつ威力ある朝鮮の力の実体」と表現した。
極超音速ミサイルを開発し実戦配備しているのは中ロだけで、米国はまだ実験段階にある。米国に一歩先んじて朝鮮がさきに実戦配備されることになると言ってよいだろう。
マッハ5以上のスピードで上下左右に変則軌道で目標物を打撃する極超音速ミサイルを迎撃することは今のところ不可能で、「ゲームチェンジャー」と言われる。
朝鮮の極超音速ミサイルは11日の実験だけでその能力を判断することはできない。多くの専門家が指摘しているように、極超音速ミサイルのブースターは、3000キロ以上の射程をもつ「火星12」並みの大きさで射程が1000キロでは止まらないことはほぼ確実視されている。さらに、昨年9月にはグライダー型の超音速ミサイルを試射しており、今回「最終試射」で「大成功」した円すい型とあわせて二種類の極超音速ミサイルが開発されてきた。グライダー型のミサイル開発は引き続き行われているとみられ、円すい型とあわせこれが完成すれば、ICBMの完成に匹敵する意味を持つことになろう。
破綻した「実用的で調整されたアプローチ」
朝鮮による極超音速ミサイルが「大成功」したことにより、米国が推進してきた対朝鮮対話アプローチは破綻したと言える。
バイデン政権が「実用的で調整されたアプローチ」と銘打ち、朝鮮に対話を提案、要求してきたことは周知の事実だ。
米国に敵対視政策の撤回を要求し、撤回しないなら核抑止力の高度化で対応すると宣言した朝鮮を対話のテーブルに座らせ、当面核抑止力の高度化を阻み、徐々に「北非核化」、朝鮮を武装解除させることにその目的があったことは隠しようがない。米国が口では「対話」を唱え行動では「敵対」してきたことを見れば一目瞭然で、説明の必要もあるまい。
トランプ政権下での朝米共同声明を認めず厳しい姿勢を示してきたバイデン政権が「朝鮮半島の非核化」という心にもない共同声明の文言を振りかざし「実用的で調整されたアプローチ」を持ち出したのには、他に手段がないことに加え文在寅政権の浅知恵が一助したとみられる。「北非核化」ではなく、朝鮮側の主張でもあり共同声明にも謳われた「朝鮮半島の非核化」を掲げれば朝鮮側は対話を無下に拒否することができないばかりか、「経済難」に苦しむ朝鮮に人道支援を持ち掛ければ朝鮮を対話のテーブルに引き出すことができるというのが、文在寅政権がバイデン政権に持ちけた対話提案の中身であったということは容易に想像がつく。文在寅大統領自身が「実用的で調整されたアプローチ」の提案直後に韓国の提案が米国に受け入れられたと得意げに語っていた事実はこれを物語る。また厳格な制裁の実行を唱え「北非核化」なしには人道支援も許さないとしてきたバイデン政権が、「実用的で調整されたアプローチ」を打ち出すと同時に韓国側が提案する人道支援については可能であるかのような姿勢をちらつかせ始めたことも偶然ではあるまい。
「実用的で調整されたアプローチ」とは、いかなる手段を用いても朝鮮から核抑止力を取り上げようとする米国と、朝鮮の「国家核戦力の完成」で失われた北に対する南側の“優位性”を取り戻し、朝鮮を武装解除させることによって「吸収統一」を実現しようとする文在寅政権の思惑の産物であったと言える。
平和論者に見える文在寅大統領が「吸収統一」を一貫して追求してきたことを知る人はあまりいない。文在寅大統領が大統領に就任する直前の2017年1月に出版された対談集 「大韓民国に聞く」という書籍がある。ここには「統一は結局資本主義体制への統一になるわけで、北の人たちは苦難を強いられることになる」という文在寅大統領の発言が紹介されている。文在寅大統領が「吸収統一論者」であろうという点では、弾劾された朴槿恵前大統領など歴代の独裁政権大統領と変わらないことを示している。文在寅大統領が、朝鮮を米軍の力で占領し占領地域の統治訓練まで行う夏の米韓合同軍事演習を中止、延期を試みたことは一度もなく、反対に「戦時作戦指揮権返還準備」を口実に積極的に推進してきたことは何を示すのか。
戦争演習に代表される敵対政策を公然と追求しながら対話を求める「実用的で調整されたアプローチ」に朝鮮が応じるはずもなく、招いたのは極超音速ミサイルの開発と実戦配備である。
支離滅裂な言動
ブリンケン米国長官は朝鮮に対する追加制裁など「あらゆる適切な手段」を云々し圧力を一層強化する意思を鮮明にしている。しかし、安保理による非難声明も追加制裁も中ロの反対で挫折を余儀なくされている。
仕方なく米国は単独制裁を追加するとともに、「北朝鮮の行動の一部は関心を引くためのものだと考えている」などと嘯いている。米国が「実用的で調整されたアプローチ」を打ち出しことあるたびに朝鮮に対話を求めてきたことは周知の事実だ。朝鮮には米国の「関心を引く」必要は全くなく、朝鮮の関心を引こうとしてきたのは「敵対意思はない」などの戯言を並べて対話の懇願してきた米国ではなかったのか。この経緯を顧みればブリンケンの「関心」云々の発言は支離滅裂と言えよう。
「朝鮮が米国の気を引くためにミサイル実験をしている」とは米韓が以前から繰り返してきた自らの優位性を誇るためのプロパガンダだ。「気を引く」とは米国の関心を朝鮮に向けさせようとしていると言いたいらしいが、米国が朝鮮の気を引いて対話のテーブルに座らせるために四苦八苦しているのが現実ではないのか。朝鮮が「国家核戦力を完成」させた時点で米国の優位性などは消え去って久しい。
韓国の軍部が朝鮮の極超音速ミサイルを、その要件を備えていないなどと重ねて否定し、迎撃可能と強弁していることも同様の脈絡と言える。
韓国軍部の言動がいかに荒唐無稽で支離滅裂であるかは次のような指摘を見れば明らかだ。
「韓国軍は速度や飛行軌跡、弾頭の種類など、いずれも分析できなかった。韓国政府がまともな技術資料もない状況で、『極超音速ミサイルではなく、弾道ミサイル』として北朝鮮の飛翔体を否定」いる。(キム・ジョンデ・延世大学統一研究院客員教授、ハンギョレ新聞1.14)一言でいえば軍部の言動は技術的裏付けがまったくないでたらめな主張に過ぎないということだ。さらには、迎撃可能としている点についても韓国の保守的な専門家までもが「根拠のない自信」と非難しており話にならない。
一方保守反共の「中央日報」(1.16)は、このような軍部主張の背後には青瓦台(大統領府)がいると報じている。
まともな技術資料もなく、探知もできていないのに、“南のミサイル技術の方が優れている”と強弁しているのは文在寅大統領の意向であるということだ。朝鮮の極超音速ミサイルを認めれば韓国の“優位性”はあっという間に吹き飛んでしまう。嘘で自国民を騙しても実体のない“優位性”を喧伝せよというのが青瓦台の指示ということだが、まともな政権のすることではあるまい。
朝鮮の極超音速ミサイルを「弾道ミサイル」と一貫して強弁しているのは米国も同様だ。開発に取り組むも失敗続きで、朝鮮に一歩先んじて開発、実戦配備されることは、米国にとってこれ以上ない屈辱であろう。
日増しに強大化する朝鮮の核抑止力を前に、なす術もなく支離滅裂な言動を繰り返す米国とその手先である韓国の親米勢力は、時間の経過とともに逃げ場のないコーナーに追いつめられることになろう。(M.K)