朝鮮で農業部門の兵器廠と位置付けられている順川リン肥料工場が完成した。
金正恩委員長が竣工式に参加し、肥料工場建設に尽力した科学者、技術者、建設者らを高く評価しねぎらった。
朝鮮のマスコミは、ひとつの新しい工業分野を創設するに等しい現代的なリン肥料工場を立ち上げたことは、米国の敵対政策と制裁圧迫を正面から突破して、必ずや自力富強、自力繁栄の道を切り開くための「正面突破戦における初勝利の砲声」(朝鮮中央通信5月1日)、と伝えた。
米CIAによる卑劣なプロパガンダによって金正恩委員長の健康問題に関心が集中するのは避けられない状況ではあったが、肥料工場建設の意義が過小評価されるわけではない。逆に金正恩委員長が竣工式に参加したことで、順川リン肥料工場の重要性が浮き彫りにされた。
ボタ山を宝の山に
「労働新聞」(5月2日付)は竣工式を伝えた報道の中で、順川リン肥料工場は「主体化、現代化の要求が徹底して具現され、生産においても、建築物も、生態環境保護においても完璧で化学工業部門のお手本になる標準工場」と指摘、「われわれの力、われわれの技術、われわれの原料に依拠した主体的なリン肥料工業が創設」されてことにより「穀物生産を決定的に増産する突破口が開」かれたと、その意義を強調した。
順川リン肥料工場の建設が本格化したのは2019年初め。前年の2018年12月金正恩委員長が今農業で最も解決が待たれるのがリン肥料であり、リン肥料があれば穀物数十万トンを増産できると述べ、工場建設を力強く進める一連の対策を陣頭指揮したことが契機になった。
順川リン肥料工場は、原料加工工程、黄リン生産工程、リン安生産工程、製品包装工程などの生産区域と教養及び生活区域からなる。肥料工場は原料投入から製品の包装にいたるまで、すべての工程が自動化、オートメーション化されており、高濃度リン安肥料を大量生産することができる。
農業部門で切実に解決が待たれた高濃度リン安肥料の大量生産が可能になったことで、食糧問題を完全に解決する道が開かれた。近年朝鮮では農業インフラの整備が急速に進められる一方、石炭ガス化によって窒素肥料の自力大量生産、農業用ビニールなどの資材、機材も自力で解決している。さらに農産とともに食糧問題解決の三本柱と言われる畜産、水産も毎年生産高を伸ばしている。このような中で今まで輸入に頼らざるを得なかったリン肥料を独自で解決するに至ったことで食糧の自給自足への道が開かれた。
上述したように順川リン肥料工場は、「われわれの力、われわれの技術、われわれの原料に依拠した主体的なリン肥料工業」である。従来の技術ではリン肥料生産にはコークスが欠かせない。しかし朝鮮にはコークス資源がなく輸入を前提にしたのでは、米国の制裁のターゲットにされることは避けられない。このため無コークスリン肥料生産のための技術開発が求められた。この問題を解決したのが李寿福順川化学大学に勤務する30代の若手科学者のグループ。リン精鉱と無煙炭を成形する粘結剤を開発、無コークス生産を可能にした。この粘結剤の原料は褐炭の捨て石で、ボタ山を宝の山に変えたと評価されている。
制裁を骨抜きに
すでに朝鮮では国連安保理の禁油制裁に対抗して、石炭液化、石炭ガス化技術を開発、石油ではなく石炭化学に移行している。屈指の石油化学企業であった南興連合企業所が無煙炭ガス化プラントを導入したの10年以上前の2009年のこと。この事実が示すように米国が最大の圧力と豪語する禁油制裁は骨抜きにされている。
順川リン肥料工場で高濃度リン安肥料の大量生産が可能になったことで、米国をはじめどの大国も朝鮮の食糧問題、さらに化学工業を制裁と取引の材料にすることはできなくなった。自力更生は単なるスローガンでない。また「正面突破戦」もただの掛け声ではないことを順川リン肥料工場建設が示した。朝鮮中央通信が「正面突破戦における初勝利の砲声」と書いたのは、決しておおげさなことでも根拠のないことでもない。
戦略物資黄リン
順川リン肥料工場を完成させたことで朝鮮は、戦略物資化されている黄リン生産の道も開いた。
現在世界で黄リンを生産しているのは米国、中国、ベトナム、カザフスタンの4か国しかなく、原料であるリン鉱石の枯渇が憂慮されている。このため米国は早くから黄リンを戦略物資に指定して原則的に輸出を禁止している。また中国も自国消費に生産を限定している。結局のところ黄リンを安定的に生産供給できる国は、中米にカザフスタンとロシア、ベトナムだけだ。ちなみに日本にはリン鉱石がなく、黄リンはベトナムから100%輸入していると伝えられる。
リンが肥料としてだけではなく、電子部品、自動車、医薬品、プラスチックなど広範な産業分野でも利用されていることは周知の事実。特に黄リンは高精度の工業製品の生産に必須であるとともに、黄リンを出発原料とした各種誘導品は、食品から最先端分野までに至る。
朝鮮が豊富なリン鉱石を背景に独自の技術開発を経て、大規模な化学工場を立ち上げた意味はリン安肥料の大量生産に止まらないことがわかる。
朝鮮では朝鮮労働党第7回大会(2016年5月)で、▲戦略的意義をもつ原料と燃料を国内資源で保障する生産技術行程の確立▲豊富な資源と自身の技術で世界的に覇権を握れる分野を開拓して発展させる方針を打ち出していた。
順川リン肥料工場の建設は、経済制裁、外圧に影響されずに、先端工業および農業に欠くことができない戦略物資の自力生産に至ったことを示している。