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MK通信(64) 朝鮮はなぜ順川リン肥料工場建設を重視するのか

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 順川リン肥料工場建設がほぼ終わり試運転の段階に入ったと、「朝鮮の今日」が3月11日付けで報じた。
 順川リン肥料工場は、昨年朝鮮労働党の会議で米国の圧力に正面突破戦で挑むことを決めた後、金正恩委員長がはじめて現地指導した(「労働新聞」1月7日付け報道)ことで広く知られるに至った。
 工場の建設現場を訪ねた金正恩委員長は「2020年に遂行する経済課題の中で党が最も重視する対象のひとつ」と述べ、全面支援することを約束した。

無コークスリン生産技術の開発

 これを受けて「労働新聞」は順川リン肥料工場建設状況を紙面を大きく割いて報道してきた。一連の報道で目を引いたのが、朝鮮にないコークスを使用せずリン、黄リンを生産するための技術開発が必要であったこと。つまりコークスではなく石炭でリンを生産するために必要な粘結剤の開発が必須であったが、建設に当たった技術チームが解決し、自立生産の道を開いた。また黄リン電気炉をはじめとする全の設備も自力で開発したという。この点について同紙は、「出発点から他国のコークスか、自国の石炭かの深刻な選択」を迫られたが「選択は明白で断固」として石炭であった、「黄リン生産工程だけでもゼロからの出発であったが、科学者、技術者、労働者は命よりも大事な自尊心をかけて重要設備を自身の手で制作した」などと報じた。
 リンの無コークス生産の道を切り開いた意味は大きい。もしコークスの輸入を前提にしていたら、リン肥料工場を建てても、多くの国を巻き込んで加える米国の圧力と制裁でコークス輸入の道が閉ざされ肥料生産が頓挫するリスクを抱えることになる。無コークスでのリン生産技術の開発によってこのリスクを無くし、リン及びリン肥料生産において他国の干渉を一切排除できる自立生産の道を切り開いた。

「農業戦線の兵器廠」 

 順川リン肥料工場は高濃度リン安肥料を大量生産することを目的に建設されており、朝鮮で「農業戦線の兵器廠」と位置づけられている。
 高濃度リン安肥料は窒素、カリ肥料とともに肥料3要素の一つとして欠かせない肥料。窒素、カリ肥料に加え高濃度リン安肥料の大量生産が実現すれば、農業における自力、自強を確立し、農業生産を決定的に高めるうえで重要な転機となろう。
 一部では禁油制裁で窒素肥料の生産に支障をきたしているなどと言われているが、事実ではなく米国とその下請けライターによる意図歴なプロパガンダに過ぎない。一例をあげれば、朝鮮の有力な石油製品生産企業であった南興連合企業所では、すでに2010年には石油を原料にする窒素肥料生産から、石炭ガス化による窒素肥料生産へと転換している。すでに10年前のことだが、いまだに禁油で窒素肥料の生産に支障、などと中傷する米国と下請けライターがいかに朝鮮を知らずに作文しているかを如実に示している。
 石炭ガス化による窒素肥料の生産に加え、朝鮮に豊富なカリ長石を原料にするカリ肥料、そして朝鮮に豊富なリン灰石を主原料にする、高濃度リン安肥料を生産する順川リン肥料工場建設によって農業生産における肥料の自力更生が完結するわけだ。
 近年急速に進む農業インフラの整備に加え、肥料生産での自力更生の実現は、食糧の自給自足への道を開くだけでなく、米国の「最大限の圧力」を突破する画期的な成果と言えよう。これでどの国も朝鮮の食糧問題を圧力の、取引の材料にすることはできなくなる。
 これだけでも、朝鮮が順川リン肥料工場建設を重視する充分な理由になる。
 しかし、順川リン肥料工場建設の意味はそれに止まらない。

世界で5か国目の黄リン生産国に

 「朝鮮の今日」(3月11日付)は、工場建設が試運転段階に入ったとの報道の中で、黄リン電気炉の設置が終ったことを強調、黄リン電気炉が順川リン肥料工場の核心設備の一つであることを強く示唆した。
 リンが肥料としてだけでなく、電子部品、自動車、医薬品、プラスチックなど広範な産業分野でも利用されており、特に黄リンは高精度の工業製品の生産にだけでなく、黄リンを出発原料とした各種誘導品は、食品から最先端分野まで生活に欠かせない製品の素材になっている、と指摘されている。
 ところが近年リン鉱石の枯渇に加え、黄リンの供給リスクが問題になっていると指摘されている。(「リン酸からの黄リン製造の試み」http://pido.or.jp/R1pdf/seminar4.pdfEU が定期的に公表している資源枯渇に直面する戦略物質のリストによれば「リンの需要に対して、資源そのもの(リン鉱石)と製造技術(黄リン)の2重の供給リスクがある」とのこと。現在黄リン生産国は中国、米国、ベトナムカザフスタンの4カ国。米国は早くから黄リンを戦略物質に指定、原則的に黄リンの輸出を禁止しており、中国は自国用のみに黄リンを製造しているとされる。
 まとめれば、広範な産業分野でも利用されてるだけでなく、食品から最先端分野まで欠くことができない素材であるリン、黄リンが戦略物資化されていると、いうことだ。
 朝鮮が黄リン電気炉を設置したのは、湿式法ではなく、乾式法を採用したことを示しており、自国で肥料および産業分野に利用するだけでなく、国際的に黄リンが戦略物資化した状況に対処するためであることは明らかだろう。
 順川リン肥料工場が完成すれば、朝鮮は米国が戦略物資に指定して輸出を禁止している黄リンを自力で生産することになり、外交分野において米国の制裁を正面突破するうえで大きな意味を持つことになろう。ちなみに日本は黄リンを100%ベトナムから輸入していると伝えられる。
 順川リン肥料工場は、朝鮮がスローガンに掲げる自立、自強が目指す経済建設の一端をわかりやすく見せてくれる。裏山を掘れば各種の有用な鉱物を得ることができ、前庭を掘れば金銀がでてくる、資源に恵まれた朝鮮が、経済建設の動力が科学技術の発展にあるとし、正面突破を呼び掛けた戦略は荒唐無稽なものではない。
 順川リン肥料工場建設が現実的可能性を示しており、その突破口になるものとみて間違いあるまい。(M.K)
(※高麗ジャーナル20.03.12掲載)